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【CK3】戦国ハサン・サッバーフ③ 闇よりの使者(1580-1589)

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それは、正しき歴史の一端に差し挟まれた偽りの断片に過ぎないはずだった。それは何事もなく見捨てられ、堆積した塵芥の一つとなるはずであった。

しかし、それ⚫︎ ⚫︎が持つ強き意志ゆえか、それは歴史の流れに大きな影響を与えうるほどの存在となり、その名を畿内の地図上にはっきりと刻むほどのものとなった。

彼らは、ただ存在するだけではない。彼らはその胸中に秘めし異端の信仰を、この異国の地に根付かせるべく行動を開始したのである。

ゆえに、歴史の意思は傍観することを止めた。彼らは尖兵を送り込み、異端を徹底的に排除することを望んだ。

その先にあるのは、正しき歴史という名の平穏か、それとも彼ら⚫︎ ⚫︎による反撃の末の、未開なる世界への扉か。

 

異端戦国大河第三章。信仰への強き意志は、次第に歴史を塗り替えていく。

 

目次

 

※ゲーム上の兵数を10倍にした数を物語上の兵数として表記しております(より史実に近づけるため)。

 

Ver.1.13.1.2(Basileus)

Shogunate Ver.0.8.6.3(紅葉賀)

使用DLC

  • The Northern Lords
  • The Royal Court
  • The Fate of Iberia
  • Firends and Foes
  • Tours and Tournaments
  • Wards and Wardens
  • Legacy of Perisia
  • Legends of the Dead
  • Roads to Power

使用MOD

 

前回はこちら

restorynotes.com

 

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飯盛山城の戦い

天正8年(1580年)12月。

堺の町の中心部に位置する鯖布さばふ巴算はさんの屋敷に、急の報せを告げる早馬が飛び込んできた。彼らは差し出された水を飲むことさえ拒否する焦りようで、主君へと報を告げる。

「ーー織田侍従信長、突如として我々に対し宣戦を布告。凡そ十万もの兵を率いて、間も無く河内の領内へと侵入を開始する恐れ」

「そうか」

伝令の焦りようとは裏腹に、至って冷静に応える巴算。

「飯盛山城の服部には、我が軍の精鋭を全て預けてある。憂いはない。問題なく⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎、これを迎撃し得るだろう」

巴算のあまりの落ち着き様に、伝令も次第に冷静さを取り戻す。

自軍の三万に対し、敵軍は総勢十万。その同盟国も合わせれば三十万にも達するとさえ噂される。

にも関わらず、この巴算という男は微塵も焦りを感じていないようにさえ思える。まるで、全ては彼の用意した盤面の中で棋譜通り動いているかのように。

巴算はそんな伝令に、小さく、優しく、微笑みかける。

「貴殿もご苦労であった。少し休んだのち、飯盛山城へ向かい服部に伝えよ。

 ――無理をするな、存分に蹴散らしたのちに、全力で撤退せよ、とな」

 

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「ーー無茶を言う」

伝来の言葉を受け、その男ーー服部半蔵正成は笑う。

「要は、一度は十分に勝利せねば撤退は許さぬ、と言うことだろう。全くもって人遣いの荒い義弟おとうとだ」

「とは言え、それこそが我らに対する信頼の証というわけでもあるーー半五郎、又十郎」

「は」

正成の言葉に、二人の武将が前に進み出る。

「まずは又十郎、お前は鉄砲隊を率い、迫り来る敵の徒武者を近付く前に殲滅せよ」

「御意」

又十郎の持つ「弓兵」特性は、鉄砲足軽隊に対する大きなボーナスをもたらす。

 

「そして半五郎。鉄砲の雨を潜り抜けてきた敵の槍足軽に対しては、お前の率いる徒武者隊による勇敢なる白兵戦で蹴散らすのだ。犠牲は多いだろうが、やれるな?」

「もちろんです。『槍の半五郎』の名に恥じぬ戦いを、我らが鉄壁の武者隊にて披露して見せましょう」

半五郎の方は徒武者(重歩兵)に対するボーナスを持つ。

 

「うむーーその間に私は、騎馬隊を率いて混乱する敵兵を各個撃破していく。敵の数は多いが、その大半は農民兵を含む数合わせの足軽に過ぎぬ。我らが鯖布軍の精鋭を前にすれば、恐れるような敵ではない。

 行くぞーー我らが真の信仰が為、我らが頭領に勝利を捧げるぞ!」

「――奴等は城に籠ることもせず、わざわざ平地に出て迎え撃っているというのか?」

織田軍の指揮を任されていた稲葉一鉄は、物見の報告を聞き、嘲笑うように告げる。

「遮るものも何もない平地での戦いなど、数的不利の軍にとっては自殺行為にも等しい。所詮は田舎侍の用意した急拵えの雑兵共に過ぎんな」

「しかし、稲葉様――確かに数の上では間違いなく我が軍は敵軍を押しておりますが・・・そのたびに、我軍の犠牲は敵軍より遥かに早いペースで積み上げられつつあります」

「この一連の戦いで既に松浦殿、太田殿らの部隊が壊滅し、負傷者を多数出しているようです」

「何だとーーこちらとて、十分な数の徒武者、精鋭槍兵を用意しているだろう。なぜ我々ばかりが一方的にやられているのだ?」

「まず、敵軍の圧倒的な数と質の鉄砲隊による猛攻撃で、我軍の武者たちは完全に無力化されており、次いで押し寄せる敵軍の徒武者たちによって槍足軽軍団も封殺されているようです」


「く――ならば敵が近づくより先に、弓兵・鉄砲軍団による一斉射撃で対抗せよ!」

一鉄の指示の下、攻勢を仕掛けていた前衛を後退させ、織田軍は精鋭弓部隊による鯖布軍に対する一斉射撃を仕掛けようとする。

しかしそのとき――。

「――稲葉様! 左翼より、突如として敵騎兵部隊が出現! 前線に立った弓兵部隊へと強襲を仕掛けようとして――間に合いません!」

「――掛かれッ!! 一気に決めるぞッ!!!」

それは、まさに奇跡のような一幕であった。

10万vs3万。実に3倍以上もの大差をつけて襲い掛かった織田軍が、まるで削り取られるかのように屍を積み上げていったのである。その犠牲者数は、実に2万5千にもおよび、鯖布軍の2.5倍以上もの犠牲を生み出すこととなった。

油断しきっていた彼らが、淀川を背に戦いに挑んだこともまた、大きな犠牲を産む要因となった。劣勢に陥り撤退する敵軍を追い、追撃で数多くの武将を討ち取ることにも成功した。

とりわけ正成は自ら前線に立って敵兵を屠り散らし、たった一人で188名もの織田兵を討ち取ることに成功した。まさに鬼神の如き活躍である。

しかし、この勝利で全てが終わるわけでないことを、正成は十分にわかっていた。

「――総員、撤退だ!」

あらかた敵兵の首を獲り終わったのを見届け、服部正成は大音声にて周囲に吼える。

「緒戦の勝利は必然だ。数に頼んでいた敵軍は油断し切っており、奇襲的な効果も得られた。しかし、数の差はなおも歴然であり、それが埋まったわけではない。

 故に、次はない。我らが頭領の忠告通り、これより我々は、全速力で撤退を敢行するーー!」

末端の兵らはその指示に驚きを隠せなかったが、すぐさま正成の言葉の意味を理解した諸将らは顔色を一瞬で変え、整然たる様子で兵をまとめ撤退を開始した。

彼らの行先は南方、堺のさらに南方の嶽山城である。

 

「――鯖布軍は撤退したと」

「ええ。勝利に湧くでもなく、こちらに深追いをするでもなく、守り切ったはずの城を捨て、一目散に南方へと」

「フン・・・ゆえに最初から籠城を選ばなかったというわけだ。確実に、意味のある勝利だけを取り、その効果を最大限に残すことをよく心得ている。恐るべき男だ、巴算とやらは」

「すでに木下殿を中心とした部隊が敵を追って獄山に向かっております。しかし・・・」

「飯盛山の二の舞になることを恐れ、二の足を踏んでいる、ということだろう? 無理もない。得体の知れぬ相手に無策の突撃を行うほど愚かなことはないと、識のある者こそよく分かっている。そのための先の無謀かのような戦いだったのだろうからな。

 ーー上杉に遣いを出せ。先の北条攻めでこちらが果たした役割への、返済をさせるのだ」

 

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天正9年(1581年)4月12日。

河内国南部、獄山。かの楠木正成が築城したという獄山城を前にして鯖布軍は布陣し、敵を待ち構えていた。

先の飯盛山城のときと違い、地勢を活かした防衛戦によって、油断を排した精鋭部隊であっても、織田軍はここに突撃することを躊躇するようになっていた。かと言って本拠たる堺を包囲しようとすれば、その鉄壁の防衛力に阻まれている間に、山から降りてきた鯖布軍に後背を突かれる恐れがある・・・左遷された稲葉一鉄に代わり、本隊の総指揮を任されていた木下秀吉は、いかにしてこれを打開するか、頭を悩ませていた。

その秀吉のもとに、伝令が現れて事態の急変を告げる。

「ーー関東管領・上杉謙信より、この戦いへの参戦を決める宣言が届けられました! 6万の上杉軍が間も無く、この畿内へと到着する見込みとの由!」

「そうか」秀吉も安心したような吐息を漏らす。「上杉軍は勇猛果敢にして士気壮健。我が軍に蔓延する弱気な雰囲気をも一掃してくれることだろう。良しーー到着次第、敵本陣、獄山城に総力戦を仕掛けるぞッ!」

 

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同じ報告を、同じ時機タイミングに巴算は受けていた。

しかし彼のその表情はなおも落ち着いたものであり、微塵も揺らぎはしなかった。

「構わぬ。すでに矢は放たれている。あとはそれが、敵の胸元に届くのを待つだけだ」

 

 

闇よりの使者

10月25日。

ついに合流し、12万にも膨れ上がった織田・上杉連合軍は、獄山城に立て籠もる鯖布軍に一斉に襲い掛かる。

軍神・上杉謙信が率いるこの軍勢はさしもの服部正成率いる巴算軍でも堪えきることは難しく、一瞬のうちに兵が溶けていくかの如く蹴散らされていく。

 

――このままでは、数日のうちには獄山城は陥落するだろう。そしてそのまま、雪崩を打つが如く、巴算軍は敗戦を重ねていくに違いない。

 

そう、誰もが思っていた、その夜――。

 

「――準備は万端だな?」

「ああ、抜かりない。既にこの数ヶ月で、奴の宮廷の内部に多数の工作員を得ている。侵入経路も脱出経路も問題なく用意されている。あとは一突きするだけだ」

「――愉しそうだな」

「そりゃあもちろん。この瞬間が、アタシにとって最もこの世で生を実感できる瞬間だからね。

 例え相手がこの国で最も力を持った男であろうと、その命は平等に、たった一つ。この世から迫害され、名も知れず消え去ってしまいそうな醜き女の小刀一つで、いとも簡単に喪われるのだから、これほど遣り甲斐のあることはない」

「確かにな――俺たちは常に、権力に迫害されてきた。誰もが、俺たちを都合よく扱い、用が無くなれば斬り捨ててきた。

 しかし大将は違う。俺たちのために。俺たちのような者たちの未来のために、新しい価値でもって新しい国を作ろうとしてくれている。

 頼んだぞ、ナミ。俺たちの大将の野望がため、歴史に名を遺すその一撃を、奴にくれてやれ」


「――何だと」

急使の報告を受け、秀吉は最初、それを信じることなどできなかった。

しかし敵陣に密かに入り込もうとしているところを捕らえた密使の懐にも、同じ内容の書状が忍ばされていたことが分かり、いよいよその事実を受け止めざるを得なくなっていた。

そして、それを真実だと理解してからの彼の決断は早かった。

「ーー今すぐに上杉方との会談を設けよ。敵方との交渉役の準備もだ。

 翌日には陣を纏め、岐阜へと帰還する準備を進めなければならぬ。そうしなければーー織田家の崩壊は必至だ」

 

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天正9年(1581年)10月26日。

日の出と共に、太陽の光が大地を舐めるよりも速く、偉大なる英傑の死の事実は畿内全域に広がっていった。おそらくは鯖布軍の策略で、異様な速度で。

獄山城を囲む織田軍は箝口令を敷く必要さえなかった。彼らは上杉軍と共にすぐさま鯖布軍との和睦を纏め上げた。

上杉軍も織田軍も、もはや陥落間近であった獄山城の攻撃を直ちに止め、速やかに撤退することと、鯖布軍もその退却の邪魔を決して行わず、安全に見送ること。

それらを定めた約定でもって、今は亡き織田信長の始めた戦争は唐突な終わりを迎えることとなった。

鯖布軍も、この約定を律儀に守り、織田上杉の撤退を見送った。彼らとて、上杉謙信を中心とする敵軍の猛攻に確かに壊滅寸前となり、まともに追撃する余裕など残されていなかったのだ。

それに加えて――巴算もここで、無理をする⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎ ⚫︎必要はないと理解していた。間も無く、織田は自壊するであろうことを、彼は誰よりも理解していたのだ。

 

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「ーー状況はどうだ?」

「は。当主・信長の急死に伴い、織田家内は混乱に陥っている様子。現状はとりあえず、元々後継者として定められていた嫡男の信忠を新当主として一定の落ち着きを保ててはいるようですが、すでに内部では有力家臣たちによる勢力争いの火が灯されているようではあります」

「なるほど」密偵頭の報告を受けて、巴算は薄く笑みを零す。「ならば、その落ち着きの蓋を取り外せば、火種はさらに大きく発火することになりそうだな」

巴算の言葉に、政経もまたニヤリと笑い、頷く。

「その通りです。そしてすでに、動き出しております。間も無く、結果が届けられることになるでしょう」

 

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信長の死からわずか1年。

すでに後継者として確定し代替わりの準備を進めていた織田信忠の存在故に、織田家の崩壊はかろうじて免れていたものの、その信忠もまた、あっけなく凶刃に倒れることとなった。

織田家当主はわずか2歳の三法師のものに。しかしその後見人の座を巡り、あっと言う間に織田家内は内乱状態に陥る。

内乱を率いたのは、その前年に没した柴田勝家の遺児・柴田勝里。織田家重臣の林通政や安藤定治、稲葉一鉄、佐治為平などが与力し、13万もの大軍を擁する大反乱となった。

 

その隙に、ハサンは畿内の勢力を拡大。根来、雑賀、そして大和と勢力を拡大していき、南畿内における最大の有力者として君臨することとなった。

同時に巴算は朝廷に対する工作も開始。織田家という後ろ盾が弱体化しつつある中、朝廷も新たな庇護者を求めて活発に動き始めており、積極的な献金を行った巴算を従五位下に叙し、治部少輔の官位をも与えたのである。

これで正当性を得た形となった鯖布家。

一方の織田家は、反乱を鎮圧することはできたものの、その過程で木下秀吉を喪うなどその内部はもはや再起不能なほどに弱体化しつつあった。

天正15年(1587年)1月22日。

混乱の中で京都周辺を含む北畿内の安全を守る能力は織田家にはもはやなく、これを鯖布家が守護するという名目で、織田家に対する宣戦布告を敢行。

 

のちに天正丁亥ていがいの乱と呼ばれる戦が幕を開ける。

 

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天正丁亥の乱

3月。河内国を発った鯖布軍は3万の軍勢を展開し、京都南部の制圧を開始する。

鯖府軍はただちに京の各地に禁制を出し、町民の保護を宣言。民衆もまた、この新しい秩序の登場を歓迎するかのようにこれを受け入れつつあった。

 

「――このまま京に入ったとて、そこはもはや敵地とさえ言えるだろう。それよりは、大和国を経由し、松浦殿の領する岸和田城の兵と合流し、敵本拠地を叩く。

 我が主君、信長公、そして信忠公・・・その命を奪った忌まわしき巴算の首は、例えこの命を引き換えにしてでも必ずや奪い取って見せよう」

信長、信忠に仕えた忠臣・斎藤利治は、織田全軍4万の兵を率いて相良郡より大和国への侵入を試みる――

 

――が、

 

「――殿ッ! ・・・海住山の方面より、鯖布軍3万が突如として出現! 間も無くの内に、追いつかれる模様ッ!」

「――おのれ、神出鬼没なる妖怪共めッ! 良いだろう・・・数の利も地の利もこちらにある。迎え討ってやろうッ!!」

丘陵地帯で待ち構えていたにも関わらず、服部正成の柔軟な戦術はあっという間に織田軍の動きを封じ、混乱させ、そして包囲の末に成す術もなくこれを壊滅させた。

もはや、鯖布軍に対抗するだけの術を、織田軍は持ち合わせてなどいなかった。

このまま、ひたすらにただ、蹂躙されるだけで終わるのかと思っていたが――

 

 

「――山中鹿介?」

「ええ。元は山陰の強国・尼子氏の家臣ではありましたが、これが毛利によって滅ぼされた後、その復興を目指し、各地を転々としていた男です。近年は織田家に寄宿し、傭兵のような仕事をしつつ復興運動を継続していたと聞いておりましたが――まさか、この戦いにも参戦してくるとは」

「織田家残党も合流し、京に残していた我が軍を一瞬のうちに滅ぼした彼らは、そのまま南下し、再び京の制圧地を奪い返そうとしているようです」

「そうはさせぬ。京をこれ以上混乱せしめれば、我々の正当性も再び損なわれてしまうことだろう。すぐに残軍を纏め、強襲を仕掛けるぞ!」

服部正成の言葉に頷きつつも、又十郎は深刻な顔で告げる。

「お気を付けください、殿――彼らは今までの敵とは違う。彼らは鯖布軍同様、この戦国の世において修羅を潜り抜けてきた精鋭たちです――」

「――く、これは・・・!」

戦巧者の服部正成をさらに上回るかのような巧みな軍用で、正成率いる鯖布軍は次々と壊滅させられていく。それはまさに彼らの軍がこれまで敵に見せてきた、その異様な強さそのものであった。

「――殿・・・これは持ちませぬ! 潔く撤退を!」

「・・・致し方あるまいッ!」

 

「――見事な引き際だな」

整然とした様子で、最低限の被害で退却を敢行せしめた鯖布軍の様子を見て、山中幸盛は素直に感嘆の吐息を漏らす。

「とは言え、これで奴等の勢いを削ぐことはできた。ただ一方的にやられるだけではなくなるだろう。今のうちに織田軍の体制も整えることができれば、最終的には数で勝る我々が勝利を掴むことはできるはずだ。

 ――この勝利で織田家内での発言権を高めることができれば、いよいよ尼子家復興への道筋が開けるはずだ。その好機を、摘ませるわけにはいかぬ・・・!」

幸盛は兵を纏め、鯖布家への反撃を開始すべく南下を開始しようと動き始めた。

 

そのとき、岐阜より信じられない報せが届けられる。

 

 

「・・・三法師様が、敵方に捕らえられた、だと?

 護衛は一体何をやっている・・・このようなこと、前代未聞であるぞッ!」

怒り狂う織田家筆頭家老・織田正勝*1。誰も何も言えずにいる中で、一人の男が静かに口を開いた。

「――これが、奴等の恐ろしさなのです。山の民・・・彼らはもはや、我々の常識の通じぬ、この世全ての仇敵となりうる者共と言えるでしょう」

 

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天正17年(1589年)7月。

捕らえられた三法師の身の安全と引き換えに、織田家は完全敗北を受け入れ、畿内の大半は鯖府家の領有となることが認められた。

畿内を抑えることは天下を抑えることに等しい。

異邦の中心を牛耳ることに成功したハサンは、やがてその野望の実現に向けた最終局面へと至ろうとしていた。

 

だが、これまでは畿内ないしは織田家とその周辺の小さな諍いとしか考えていなかった地方の勢力も、この急拡大する新興勢力に対する危機感を、ついに持ち始めることとなる。

「ーー鯖布、巴算か」

「・・・奇怪なる異国の教えを広める存在とも聞く」

「捨て置けば、取り返しのつかない事態をもたらすかもしれんな」

「何か手立てを考えねばならぬーー」

「魔王・巴算。その打倒のための、大戦略を」

 

「ーーフン、烏合の衆が、どれだけ集まろうとも、我が野望を止めることなどできぬ。

 ようやく作り上げた、わが信仰の基盤たるこの地を、決して奪わせはせぬ。たとえ、どんな邪魔立てがあろうとも、な」

 

最終回に続く。

 

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*1:蜂須賀正勝のことだが、信長叔父の織田信次の養子となり、織田一門に加わっていた。


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